スポーツ文化考

脚を使うスポーツと頭を使うスポーツ
2001.6.30

 「ある種の魚の胸ビレが前足に、腹ビレが後足になったという。水中から陸上へ、そして樹上での生活のうちに手と足の分化がおこり、さらに森林から草原にでたときに直立二足歩行のすべを知ったという。二本の足で動きまわり、二本の手で火をおこし、道具をつくりこれを使う。胴体の上には内外の監視と指令をつかさどる頭をのせている。それは豊かな知性をもって高度の文化を生み出し、自然に挑戦しようとさえする。そのくせ、幼な子のように遊ぶことが大好きなホモ・ルーデンス(遊戯人)、それが私たち人間の履歴書である」
 私はあるところに、人間の特徴をこんなふうに押し縮めた形で書きました。そして何か大切なことを書き落としているなと思ったとき、ふと表題のことが頭の隅から浮かび上がってきたのです。
 水面があります。さざ波の上に優雅な曲が流れます。これにピタッと同調して人魚の尾ビレが華麗な演舞をみせます。縦横に泳ぎ、沈み、跳び上がり、倒立し、回転します。すべてをとかし込む水、すべての生命のおおもとである水、この水を仲間にひき入れて、これを道具立てとして全身で美を表現するスポ−ツがあります。それは艶やかなすらりと伸びた脚線美とこまやかな感性と表現力をもった女性にまったく似つかわしいもので、女性の独占物といってもいいものです。
 一九二九年頃、ウオーター・バレエとして世に生まれ、リズミック・スイミングという別名をもつシンクロナイズド・スイミングはロス五輪(一九八四年)に新種目として登場しました。
 このスポーツ、なぜか、人類の誕生のふるさとに身をおいて躍動するようなところに私は親しみをもつのです。
 世界でもっとも多くの愛好者をもつ男性スポーツはフットボール(サッカー)です。このスポーツ、なぜか、人類の進化に背をむけて手を使いません。そして足とともに使いにくいはずの頭を使います。こんなところに私はまたしても親しみをもつのです。そこには角突き立てて闘う動物の雄々しさが感じられます。ヨーロッパの数多くの一流ゲームをしらべた文献によると、一人の選手が一試合に平均五回のヘディングをするそうです。中ぐらいの力で蹴ったボールのスピードは時速八〇キロメートル、これが頭にあたえる衝撃は五二キログラムになります。胴体のうえにしっかりと頭をすえつける強靭な首に力がなければこれに耐えることはできません。
 ヒトのからだの監視・指令役の頭でボールに突きかかるとは何と野蛮な、非文化的なと非難する人もいます。しかし、男はそんなことにチャレンジするのが好きなのです。
 人は自分のからだの中に潜んでいる能力を精一杯、最大限に発揮しようとします。しかし、女と男ではその表現方法に違いがあります。女は人類のふるさとの水と相和して、そこに自己を表現します。男は人類の進化に背をむけて困難に挑戦しながら闘います。
 人間の履歴書のところで、私が書き落としたのはそこのところだったのです。


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