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はやい発見 すばやい治療
テニスの解説書によれば、ハ−フボレ−とはコ−トにはずんだ直後のボ−ルをすくうように打ちかえす打球法で、防御から攻撃に転じるときによく使われるとある。ショ−トバウンドでの返球である。 稿者はとんでくる打球の力を上手に利用して、正確に望ましい方向にすばやく返球するテクニックである、と考えている。丁度、応急手当や早期発見早期治療という医療の第一原則のようにである。あわてないこと、冷静に判断すること、その場での最善の処置をとること、その後に本格的医療機関にまかせることが、応急処置の原則である。また、成人病対策の第一は、自覚症状のない疾患を定期検診によっていち早く発見し、病巣の芽をつみとってしまうことである。遅れると威力を増し、予想外のところにまで悪い方向の波及効果をもたらす。スピンのかかったテニスボ−ルやピンポン球、野球のイレギュラ−バウンドが急に角度をかえてとらえるのに苦労するのは、バウンドしてはずみ上がった後のことである。はずむ瞬間にハ−フボレ−すれば、またグラブで捕球すれば、スピン効果は発揮されず、イレギュラ−は発生しない。 関西学院のハ−フボレ−の拠点は保健館である。「より健やかに、より命ながく」をモット−とする稲葉越三(1909〜 )は、1949年(昭和24年)より40年間にわたって、この任にあたっている。性格がハイレスポンスであるから、外科専門医かと思いがちであるが、呼吸器内科が専門であるという。応急手当よりも早期発見早期治療の健康管理家である。 原田の森から上 ケ原時代の初期にかけての関西学院に専属医は不在で、近在の医療機関のお世話になっていたが、1943年(昭和18年)に医師宝来善次を迎えて保健室を開設した。翌年には教師住宅の一棟を保健館として、健康管理、療養指導、救急処置、一般診療施薬、衛生調査統計などの業務をはじめた。 そして5年後に稲葉医師へと引き継がれたのである。そこではまだ世間で不十分実施であった集団検診の徹底が企画実行された。大学の入学試験の身体検査にレントゲン撮影を導入したように、胸部疾患とりわけ肺結核対策にはとくに力を入れた。結核 患学生が減少すると、こんどは心臓循環系に目をむけた。昭和32年頃からは、消化器系疾患を、そして昭和42年に現在の3階建て( 471平方米)の新保健館が完成した頃からは、癌対策としての集団検診にも力をいれている。現在では、呼吸器科、循環器科、耳鼻咽喉科、皮膚泌尿器、腎臓内科、神経科、歯科、眼科、X線科、整形外科、婦人科などの検診と治療を曜日をかえて行うために、近隣の大学病院をはじめとする医療施設より優秀な専門医を迎えて、また最新式医療機器を備えて、学生、教職員の医療にたずさわっている。また、健康管理部門の活躍を全国屈指として注目されている。 さらに見逃すことができないのは、心とからだのカンセリング機能を保健館が持っていることである。ベテラン看護婦達が、心の悩みをもつ学生に、慈母の「まなざし」と「ことば」で接するとき、薬効以上の病いへの癒し効果が生まれるのである。 心とからだの教育を実践的行動を通して行う大学体育科教育の現場が、この保健館と手をたずさえて、学生の健康管理に当たっていることがある。それは新入学生を対象とした尿検査である。尿は人体に苦痛を与えることなく簡単に採取でき、体内の健康状態を明確に反映しているものの一つであるから臨床検査材料として、その利用価値は高い。体内の全ての部分を巡り回った血液の中に、体内の健康状態情報が溶け込んでいるが、これが腎臓で濾過され、尿として生成されたときに、その情報も同時に伝達されるからである。 1970年(昭和45年)から始めた一斉検診では、尿蛋白、尿潜血反応、尿糖の正常性を検査項目としてきたが、受診者総数は昭和62年度までで、55、509名にのぼり、その間の平均では第一次スクリ−ニングで、尿蛋白または尿潜血反応が異常と判定されたものが9.0%、尿糖異常を示したものが1.4%であった。これらの人には再検査で確認し、精密検査によってその正確を期すが、そこで尿蛋白・潜血反応異常と診断されたものは全受診者の1.8%、尿糖については同じく0.1%であった。これらの人々に対して適切な医療機関を紹介し、早期の治療を受けるように指導してきたことは当然である(資料「学生の健康管理のための尿検査」論攷 1987)。 健康体力は生活の基盤である。その望ましい姿は心とからだの積極性と高い活性度が保たれていることであろう。1984年度には「健康と体力に対する意識と実態調査」を、新入学時(4月期)と、大学生としてのキャンパス生活、夏休み、前期試験、大学祭等を経験した8 ケ月後(12月期)に実施した。 「現在の自分の健康状態は良いと思いますか」という問いに、「はい」と答えた人が4月期には45%に過ぎなかったものが、12月期には69%に増加した。「あなたは自分の体力に自信がありますか」という問いには、4月期の14%が27%に増加する程度であったが、「あなたは自分の気力に自信がありますか」という問いに対しては、4月期の23%が12月期には44%へと増加した。この健康状態、体力、気力に関する質問への回答は、「はい」、「いいえ」、「まあまあ」という3段階を指定したが、4月期の「まあまあ」という曖昧な回答数の多さが、12月期には激減して、「はい」「いいえ」と断定する傾向になり、とくに「はい」の方向が多くなったのである。 高校時代の受験生活が大学での自由で巾広い活動的生活へと変化したこと、これに溶け込む自信が出来たこと、そして自己の心とからだの才能への気付きが得られたことなどから自己評価が明確になしうるようになったといえる。しかし、気力の充実度にくらべて、体力の充実度がやや乏しいことは、「ヤル気はあるが、からだがついてこん!」という当時のコマ−シャルコピ−を代弁しているようであった。 それから5年、この傾向は一層強まったのではないだろうか。日本経済の繁栄は今日の人々の生活をますます豊かにしてきた。「飽衣、飽食、個室でゆったり、兄弟少なく、親べったり、我がまま、自由で電話とオ−ディオ、他人のことなど知らぬふり」。こんな怠惰で自己中心的な生活風潮が、今日の大学生活にはややもすると流れがちである。
しっかりとした自覚をもった人格的存在としての自らをいつも見つめ直すこと、そして確固たる信念のもとに進むべき道を定め、それへの巾広い心とからだの充実、知的素養の拡充をはかること、そんなことがいつの時代の大学生にも望まれることである。しかも、第三の波とかビッグトレンドと呼ばれる今日的激変の社会にあっては、すばやい対応が殊更に求められるのである。
応急手当、早期発見早期治療というハ−フボレ−的対応がなければ、世間からの落伍者となりかねないことを心したいと思うのである。
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